翻訳案件1つ1つに、それぞれの特徴がある
現在、特許明細書の実ジョブに取り組んでいます。
マッチ率が低いため、ある意味おいしい案件です。
ただ、特許明細書としては短めの案件なので、「あ、これで処理スピードが加速しそうだな」と思った頃に完了してしまい、ちょっと寂しさを覚えることも。
自分の能力不足もあるかと思いますが、15000ワード以下の案件だと、1日2500ワード以上の処理スピードに達することは難しいですね。
さて、現在翻訳を終了し、見直し&後処理を行っている案件ですが、主に2つの要因から、翻訳処理スピードがあがりませんでした。
請求項が多い
いただいた明細書のページ数の3分の1が請求項という、これまでにない請求項の多さ!
10000ワード以下の明細書で、20項以上の請求項があるものをこれまでに手にしたことがなかったので、ちょっと驚きました。
請求項には苦手意識があり、また特許明細書の要となる箇所なので絶対に間違いがあってはいけないというプレッシャーもあり、かなり慎重に翻訳作業や見直し作業を進めることにしています。
文章が長い
今回の案件は、請求項に限らず、明細書全体において長い文章がちりばめられている傾向にあります。
これまでに経験した実ジョブでも、明細書内の文章が長かったことがありました。
ただ、それは名詞の羅列がほとんどで、
「このまんじゅうの中身の例としては、つぶあん、こしあん、栗あん、ナッツ、生クリーム、かぼちゃのような野菜、いちごのような季節のフルーツ、及びチョコレートが挙げられる」
といった感じでした。
しかし、今回は全然違う。
when、ifやandのような接続詞、usingなどを使った分詞、thatやwhichのような関係代名詞、byやwithなどの前置詞…などなどを駆使して、なが~い説明が1文にギュッと凝縮されているのです。
いや、凝縮などされておらず、長々と数珠繋ぎになっている状態、でしょうか。
こうなると、係り受けが非常に難しい。
また、内容をしっかり把握していないと、そこに使われているwithが、付随の「~を伴う」なのか、道具や手段の「~で」なのか、あるいは所有の「~を持って」なのかが、サッパリ分からない、というような問題に直面することになります。
このような長い文章は、請求項で原文を後ろから訳し上げて和訳してしまうと、既知の情報「前記」”the” が、新規の情報 “a” よりも前に来てしまう、なんてことも起こってしまうことがあるんですよね。
翻訳者にとって、とても頭が痛い問題です。
5000ピースのパズルに、「あーでもない、こーでもない」、と挑戦している感じでしょうか。
ちなみに、今回の一番長い請求項のワード数は、250ワード程度でした。
いくら「250ワードもあるんですよ」、といっても抽象的で漠然としないので、1文の長さがどれくらいなのか、実際に例を見てみましょう。
【発明の名称】A LITHOGRAPHY APPARATUS, AND A METHOD OF MANUFACTURING A DEVICE
【出願人名】ASML NETHERLANDS B.V
【出願番号】15768446
【出願日】20160822
6. A method of manufacturing a device using a lithographic apparatus, the method comprising:
using a projection system of a lithographic apparatus to project a patterned beam and having a final optical element;
using a substrate support to support a substrate in a path of the patterned beam;
using a liquid confinement structure to at least partly confine a liquid to an immersion space between the final optical element and the substrate; and
using a positioning device to position the substrate support and thereby the substrate, the positioning of the substrate support comprising:
performing a first exposure motion during which the substrate is moved at an essentially constant speed in a first direction;
performing a transfer motion after the end of the first exposure motion; and
performing a next second exposure motion during which the substrate is moved at an essentially constant speed in a direction parallel to the first direction,
wherein the transfer motion comprises:
a first transit motion during which the substrate is accelerated in a second direction orthogonal to the first direction and decelerated in the first direction;
a second transit motion during which the substrate’s movements in a plane containing the first and second directions are only in the second direction;
a third transit motion during which the substrate accelerates in the first direction and decelerates in the second direction;
a fourth transit motion in which the substrate’s movements in the plane containing the first and second directions are only parallel to the first direction.
念のために言っておきますが、あくまでも長さ(ワード数)の例であって、現在の実ジョブの文章ではありません。
最近、露光装置から縁遠くなってしまっているので、ASML社の露光装置の特許明細書を、J-PlatPatから拾ってきました。
ああ、露光装置関連の明細書を見ると、訳したくてうずうずしてきますね。
上記のようにきれいに体裁が整っている、まるでお手本のような請求項なら訳しやすいのですが、実際に手元にあるものは、もっと手ごわい。
短い文はけっこうサクサクと進めていくことができましたが、上記のような長い文章に関しては、翻訳にも、見直しにも、かなり時間がかかりました。
かなり頭も時間も使ってヘトヘトになりましたが、翻訳し終えてしまえば、いい経験ができたと思えるようになりますね。
ミスチルの「終わりなき旅」の歌詞の一部に、こんな言葉があります。
難しく考え出すと 結局全てが嫌になって
そっとそっと 逃げ出したくなるけど
高ければ高い壁の方が 登った時気持ちいいもんな
まだ限界だなんて認めちゃいないさ
まさしく、高い壁を登り切った後は、気分爽快です。
そして、自分はまだまだ限界になんか達していない、そう信じています。
自分の「終わりなき旅」
まだ、コメント作成や最終の見直しが残っていますが、納期まで時間に余裕があるので、1日寝かせる予定です。
ということで、明日は新しい案件に取り掛かりたいと思います。
次も頑張るぞ!