請求項を分解&図解すると理解しやすくなる
特許翻訳の中でも、理解が難しいものの1つに請求項があります。
実は自分も苦手意識があり、明細書を読むときも請求項は飛ばして読むことがほとんどでした。
しかし、この苦手意識を克服しなければ、特許明細書が読めるはずもないし、まして和訳できるはずもありません。
ということで、今、請求項のビデオセミナーを集め、まとめて学習しています。
その学習中に、「請求項を頭から読むのではなく、文章を分解し、図解してまとめることで理解が進む」と説明がありました。
確かに、上記の方法でまとめることで、請求項が分かるようになってくるんですよね。
実際の請求項を使って考えてみましょう。
請求項を理解しよう!実践編
ここで使用する例は、自分の大好きな露光装置です。
今回はウシオ電機のものなので、原文は日本語です。
(11)【公開番号】特開2018-55051(P2018-55051A)
(54)【発明の名称】コンタクト露光装置
(71)【出願人】
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクと基板とを密着させた状態とし、光源からの光をマスクを介して基板に照射することでマスクのパターンを基板に露光するコンタクト露光装置であって、
基板が載置されるテーブルと、
基板に対してテーブルとは反対側においてマスクを保持するマスクホルダーと、
テーブルに載置された基板とマスクホルダーに保持されたマスクとの間を真空排気して両者を密着させるマスク側真空排気系と、
テーブルの側から基板を加圧してマスクに密着させるテーブル側加圧機構と
を備えており、
テーブル側加圧機構は、テーブルの表面を覆う加圧シートと、テーブルの表面に形成された孔を通して気体を供給する加圧用給気系とを備えており、
加圧シートは、周縁がテーブルに対して封止された状態で設けられており、基板が載置された状態で加圧用給気系により気体が供給された際に基板に向けて膨らんで基板を押圧することが可能な柔軟性を有するものであることを特徴とするコンタクト露光装置。
上記は請求項1です。
請求項1の1文だけで、なんと405文字!!
露光装置のことを何も知らない人がこの文章を読んでも、何が何だかさっぱりわからず、この明細書を読み進める気力がなくなってしまい、そっと明細書を閉じて一生の別れを告げるのではないでしょうか。
でも、ここであきらめてはいけません!
大まかな要素に分解&色分け
まず、請求項を読む際に、大きく3つの要素に分解し、色分けみましょう。
- この特許は何か?
- この特許には、どんなコンポーネントが含まれているのか?
- コンポーネントには、どんな情報が含まれているのか?
まず、この特許は何なのでしょうか?
発明の名称からもわかるように、「コンタクト露光装置」ですね。
これを赤で塗っておきます。
つぎに、この特許に含まれるコンポーネントです。
「備わって」いるものを挙げていきましょう。
テーブル、マスクホルダ―、マスク側真空排気系、テーブル側加圧機構、また、テーブル側加圧機構に含まれている加圧シート、加圧用給気系ですね。
これを緑で塗っておくことにします。
残りは、上記コンポーネントの付加情報です。
これを青で塗りましょう。
結果、以下のようになります。
マスクと基板とを密着させた状態とし、光源からの光をマスクを介して基板に照射することでマスクのパターンを基板に露光するコンタクト露光装置であって、
基板が載置されるテーブルと、
基板に対してテーブルとは反対側においてマスクを保持するマスクホルダーと、
テーブルに載置された基板とマスクホルダーに保持されたマスクとの間を真空排気して両者を密着させるマスク側真空排気系と、
テーブルの側から基板を加圧してマスクに密着させるテーブル側加圧機構と
を備えており、
テーブル側加圧機構は、テーブルの表面を覆う加圧シートと、テーブルの表面に形成された孔を通して気体を供給する加圧用給気系とを備えており、
加圧シートは、周縁がテーブルに対して封止された状態で設けられており、基板が載置された状態で加圧用給気系により気体が供給された際に基板に向けて膨らんで基板を押圧することが可能な柔軟性を有するものであることを特徴とするコンタクト露光装置。
何となくまとまってきましたね。
しかし、このままではまだわかりにくい。
さらにカテゴライズしたほうが良さそうです。
マインドマップでマッピング
もっと明確に可視化するためにも、マインドマップでまとめてみることにしましょう。
これで、かなりわかりやすくなったのではないでしょうか。
ちなみに、図の中の「+」マークはコンポーネントを表していて、「!」は装置やコンポーネントの付加情報を表しています。
このマインドマップを見れば、露光装置がわからない人であっても、少なくとも「テーブルとかマスクホルダ―とかが装置内に入ってるんだな」と理解できるはずです。
また、それぞれのコンポーネントの付加情報がすぐ隣に書かれているので、「このパーツはこんな役割をしてるんだな」と読み進むことができると思います。
明細書の図も理解向上のために活用
実際にどのような装置なのか、明細書内の図で見てみましょう。
上記の図から、この露光装置のテーブルやマスクホルダ、その他のコンポーネントがどのような状態で含まれているのかわかりますよね。
請求項1がどこに位置するのかわかるように、色を塗りました。
また符号についても、請求項1と関係する部分を抜粋しています。
もちろん上記は請求項1のみの説明であり、明細書すべてではありません。
この明細書には請求項7まであるので、全体を理解するためにはさらに読み進める必要があります。
さらに、特許の形態はカッチリ決まっているわけではなく、この分割方法ではうまくいかないこともあります。
しかし、少なくとも400字以上もあるこの請求項1が理解できれば、次に進むのは想像しているほど難しくはないですし、今後自分なりの分割・図解方法を見つけることで、さまざまな形態の請求項もそれほど頭を悩ませることなく理解できるようになるのでは、と思います。
まとめ
1. 請求項があまりにも長いために理解ができず、くじけそうになったら、まず3要素に分割&色分けしてみる。
- この特許は何か?
- この特許には、どんなコンポーネントが含まれているのか?
- コンポーネントには、どんな情報が含まれているのか?
2. 色分けができたら、マインドマップでそれぞれの情報をマッピングする。
3. 明細書に図が載っている場合は、作成したマインドマップと合わせることで、さらに請求項の理解がすすむ。
自分と同じように請求項が苦手な方に、おススメの方法です。
今回は原文が日本語の特許明細書で試してみましたが、次回は原文英語のものにチャレンジしてみたいと思います。