公開訳文に違和感を覚える
次の案件作業の準備
現在、次の案件(チェック)に向けて準備しています。
原文を読み、不足している知識の獲得や用語の確定のために、いろいろと調査を進めている段階です。
こちらは産業翻訳のお仕事なのですが、原文を読んでみると、どうやら特許が出願されていそうだぞ、と予想をつけ、J-PlatPatで検索してみたところ…。
ありました!
企業サイトでは掲載されていない知識を得るために、関連特許明細書を全てダウンロードしました。
ちなみに、オリジナルは英語以外の言語で、その特許明細書が英語に翻訳され、その後に和訳された、と思われます。
喜々として読み進め始めたのはいいものの、何か違和感がある。
例を挙げてみましょう。
2つの違和感ポイント
仕事に関連する内容なため、出願人、明細書のタイトルや出願番号などは、あえてここでは記載しません。
また、下記の文章も、違和感ポイントが分かる程度にまでわざと簡略させていますので、ご了承ください。
【原文】
the robot suffers from some disadvantageous during their operation.
【公開訳】
ロボットは、それらの動作中、いくつかの不利点に悩まされる 。
文章内で、「”disadvantages”という名詞が使われず、”disadvantageous”という形容詞になっているのは、なぜなのだろう?」、という疑問はさておき。
ここで覚えた違和感、それは、「ロボットは悩むことができるのか?」ということです。
“suffer from~”は確かに「~に悩まされる」、「~に苦しむ」と訳すことが多いのですが、ロボットは無生物主語。
無生物は悩んだり、苦しんだりすることができるのか。
最近のロボットはかなり高度なAI技術などが使用されているので、人間のように考え、悩むことができると捉えてもいいものか。
私は、「ロボットは悩むことができない…少なくとも、今の最先端技術を駆使したとしても」と思っています。
なので、この”suffer from~”は、「~により不都合を被る」や「~により不便を被る」などと訳出する方がいい、という自分なりの結論に達しました。
【原文】
the presence of 〇〇 necessitates an undesired speed reduction at the final stage.
【公開訳】
〇〇の存在は、最後の段階で、望ましくない減速を必要とする。
ん?
どうして、望ましくないものが、必要になるの?
望ましくないのであれば、必要ないのでは?
確かに、”necessitate 〇”に関しては、「〇を必要とする」との用法が一番多く使われているのでしょう。
実際に、辞書の一番最初にこの訳が紹介されています。
しかし、望ましくないものを必要とするのは、やはりどうか、と。
私なら、「~を余儀なくさせる」、あるいは、前後の文章によっては、「~をもたらす」や「~を伴う」を使用します。
ということで、この例では、
「〇〇の存在は、最後の段階で、望ましくない減速を余儀なくさせる」
あるいは、
「〇〇の存在により、最後の段階で、望ましくない減速が余儀なくさせられる」
ぐらいがいいかと思うのですが、いかがでしょうか。
翻訳って、難しいね
この時点で、公開訳をじっくり読み進めて行くという意欲が失せてしまいました。
まだ【背景技術】までしか読んでなかったのになぁ…。
残念。
特許明細書内には、ためになる知識がたくさん詰まっているはずなので、ざっと流し読みすることで欲しい知識を大まかに吸収し、おかしいと感じる文章は原文(英語の公開訳)と照らし合わようと思っています。
それにしても、やっぱり翻訳って簡単なことじゃないですね。
特に、自分の時間と頭を費やして訳出した成果物に関しては、「これだけ頑張って翻訳したのだから、私は間違っていない」と信じたくなりますので。
そこで、間違っていると指摘されれば、やはり悔しいですし、翻訳者としてのプライドが傷つくこともあります。
しかし、間違いをなかったことにしていては、絶対に成長できません。
それどころか、取引先から見放されること確実です。
翻訳済み案件は、冷静にチェッカー目線で「粗探し」「間違い探し」をして、しっかり見直し&後処理を終えた上で納品しなくては、と改めて実感しました。
さてさて。
引き続き、調査に励みます。